日本救急医学会・医学用語解説集

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医学用語 解説集

後天性免疫不全症候群

ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus; HIV)による慢性感染症が進行して免疫機能が低下した結果,日和見感染や悪性腫瘍などの全身症状を呈するようになった状態を後天性免疫不全症候群と呼ぶ。1981年に米国で最初に報告され,1983年にHIVが発見された。HIVはCD4陽性リンパ球に強い親和性を示し,その中に侵入して破壊する。HIVの侵入経路には,@HIV感染者との性交,AHIV汚染血液との濃厚接触(輸血,凝固因子製剤投与,注射器・針の回し打ち,など),B母子感染,の3通りがあるが,感染の大多数は性交によるものである。HIVに感染してもすぐには症状が出現せず,感染後1〜2週で発熱,食欲不振,リンパ節腫大を認めることもあるが,自然に軽快する。感染後6〜8週でHIV抗体が陽性となり,いわゆるキャリアとなる。その後,数年〜10数年間の無症候期に入り,病勢は深く静かに進行する。しかし,無症候期においてもCD4陽性リンパ球数は徐々に減少して免疫不全状態は進行し,やがてエイズ関連症候群と呼ばれる微熱,体重減少,易疲労,リンパ節腫大(エイズ関連リンパ腫),などの症状が出現する。最終的にはAIDSとなり,日和見感染,悪性腫瘍,消耗状態(異常なるいそうと下痢),HIV脳症を発症する。日本のAIDS患者ではカリニ肺炎の合併が多く,サイトメガロウイルス感染症,カンジダ症がそれに続く。病状の進行には個人差が大きく,その違いは血清中のウイルス量によるものと考えられている。「HIV感染症治療の手引き」(厚生労働省研究班2003,HIV感染症研究会2005)ではCD4陽性リンパ球数が200〜350/μlの時期での治療開始を推奨しており,治療効果の判定は血清中のウイルス量でおこなう。現在,抗HIV薬を組み合わせる多剤併用療法でウイルス量を減少させることにより,病状の進行を遅らせることが可能となっている。

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