日本救急医学会・医学用語解説集

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医学用語 解説集

腹部コンパートメント(区画)症候群

腹腔内大量出血,後腹膜血腫,腸管浮腫などによって腹腔内圧が上昇することで呼吸・循環障害を生じる病態の総称。発生する病態として,腹腔内および後腹腔臓器における血流減少,心臓への静脈還流の抑制(前負荷減少)と血管圧迫の結果生じる末梢血管抵抗上昇(後負荷上昇)による心拍出量の低下,腎実質,腎静脈圧迫による乏尿さらには横隔膜挙上による呼吸障害などが挙げられる。腹部膨隆,ショック,頻脈,呼吸不全,腎不全,その他の臓器障害などの症状が出現し,診断は受傷機転,損傷形態,腹部状況,循環・呼吸状態,腎臓などの臓器機能などから判断する。腹部超音波検査,CT検査などの画像診断,および膀胱内圧測定が検査として有用である。Ivaturyらは膀胱内圧25mmHg以上での減圧開腹を推奨している(J Trauma 1998; 44: 1016)。ACSはダメージコントロールサージェリーと深く関連し,術後に高頻度(5.5‐37%)で発生する点は留意しておかなければならない。すなわち,腹部外傷のダメージコントロール手術では,著明な腸管浮腫,後腹膜血腫,あるいはパッキング処置など種々の原因により,無理に閉腹するとACSを合併する危険がある。ACSの治療は腹腔内の減圧が最重要であり,血液あるいは腹水貯留が腹腔内圧上昇の原因であれば,開腹して腹腔ドレナージの適応となる。しかしながら,減圧開腹術で生理学的パラメーターが改善しても救命に直結する訳ではなく,腹圧を上昇させる原因を除去し,病態を修飾する因子の連関を断つ必要がある。ACSに対して,一時的な減圧開腹術では軽快しないと判断した場合には,応急的な閉腹法(towel clip closure,silo closure,vacuum pack法など)をおこなう。本質的な病態の改善を待って閉腹するのが有効である。

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