日本救急医学会・医学用語解説集

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医学用語 解説集

肺血栓塞栓症

肺動脈内で形成された血栓による閉塞を肺血栓症,静脈系から流入した塞栓子による肺動脈閉塞を肺塞栓症という。両者をまとめて肺血栓塞栓症と呼ぶが,多くは肺塞栓症である。塞栓子には静脈系血栓,腫瘍,脂肪,羊水,空気,造影剤などあるが,大半は下肢および骨盤に形成された深部静脈血栓である。塞栓子による末梢肺血流の低下は換気血流不均等から低酸素血症を生じる。また肺血管抵抗の増加から肺高血圧を生じ,右室負荷増大とともに左室前負荷減少による心拍出量の低下,血圧低下,時に突然の心停止に至ることもある。病院内では術後の患者や外傷後の患者が離床直後に発症することが多く,原因となる下肢深部静脈血栓の予防が重要である。自覚症状は,労作時の息切れ,胸痛,咳,失神,胸内苦悶感などである。胸部X線では,低酸素の原因となる所見がないか,血管影の減少(Westermark sign),肺動脈主幹の拡張(knucle sign,)梗塞所見(Hampton hump sign )などの所見がみられるならば本症を疑う。また,心電図で第一誘導のS波・第三誘導のQ波と陰性T波,V1からV4の陰性T波などは本症を疑わせる所見である。ベットサイド心エコーによる右心負荷所見は,診断の補助として有用である。本症が疑われるときは,凝固線溶マーカー(FDP,Dダイマーなど)を検査する。これが高値であれば本症を疑うことができるが,特異性は低い。次に胸部造影CT(同時に下肢のスキャンニングをおこなう(Drucker EA: Radiology 1996; 201: 467)。さらに肺血流シンチをおこない,診断を確定する。診断が不確定なときは下肢静脈エコー検査,下肢造影CTで深部静脈血栓を確認する。侵襲性の高い肺動脈造影や下肢静脈造影は最終的診断法として利用する。循環の安定性により治療方針が分かれる。循環動態が安定しているときは抗凝固療法のみをおこなう。循環不安定な場合,昇圧薬の使用と平行して抗凝固療法と血栓溶解療法の併用療法をおこなう。以上の治療によっても循環動態の改善がみられないときは,PCPS(percutaneous cardiopulmonary support)下にカテーテル血栓除去か手術的血栓除去をおこなう。なお,再発性の塞栓症,抗凝固療法が禁忌の場合は下大静脈フィルター設置をおこなう。

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