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『救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)』に対する救急医療従事者の意識の変容
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日本救急医学会 【はじめに】 日本救急医学会が「救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)」(以下、本ガイドライン)を公開したのは2007年11月であるが、その1年後に救急科専門医を対象として、アンケートを実施した。そのアンケートの目的は、本ガイドラインがどのように取り入れられ、活用されているのか、また、本ガイドラインを使用するうえで障害となる要因を明らかにすることであった。今回、2012年に再度、同様のアンケートを実施したが、救急科専門医に加え、日本臨床救急医学会員の看護師(以下、臨救看護師)を対象とした。公開後、5年間を経て本ガイドラインに対する救急医療従事者の考えとその変遷を把握することを目的とした。 【対象と方法】 アンケート対象は救急科専門医、臨救看護師で、2012年の調査期間は5月8日から5月20日までの13日間とした。アンケートの調査内容は本ガイドラインの認識、必要性、本ガイドライン公開後の医療現場への影響とその内容、適用状況、「終末期の定義」や「延命処置を中止する方法」についての意見、具体的事例の内容・結果・感想、断念した場合の理由、サポート体制などである。2012年では新たに、施設のガイドライン、2010年に設置された終末期症例の登録に関する質問項目を追加した(別項参照)。これらの項目に対し、スケールと自由記載による回答を依頼し、回収したアンケートの結果を集計し、2008年のアンケート結果と比較し、考察した。 【結果】
【考察】 救急科専門医3374名中658名、臨救看護師472名中77名からの回答を得た。回収率はそれぞれ19.5%(救急科専門医)、16.3%(臨救看護師)であったが、3次救急医療に所属する救急科専門医が39.2%、臨救看護師が59.7%を占め、二次救急医療22.0%(救急科専門医)、13.0%(臨救看護師)、ER12.1%(救急科専門医)、16.9%(臨救看護師)の所属を含めると85.6%(救急科専門医)、89.6%(臨救看護師)が救急医療の第一線に従事しており、本アンケート調査の結果は、本邦の救急医療における終末期医療の現状を反映しているものと推察された。 2008年との比較における救急科専門医の終末期ガイドラインに対する意識の変容について 2008年では73.3%が本ガイドラインの内容を認識していたが、2012年にはその比率が82.4%まで上昇しており、専門医の間で本ガイドラインの把握が着実に進んでいることがうかがえる(図2)。本ガイドラインを2008年で90.9%、2012年で88.9%の専門医が必要であると回答しており、否定的であったのは両年とも1%未満であり、本ガイドラインが救急医療の現場で2007年の公開以来、継続して必要とされていることが明確に示された(図3)。 2008年では本ガイドラインを終末期の診療に取り入れていたのは155名(21.7%)、2012年は163名(24.8%)であり、必要性が認識されているなかで、4年を経てガイドラインに則った実践の浸透が徐々に浸透してきていることがわかった(図6)。具体的にどのような影響があったかを、複数回答可能で問うと、終末期への対応が進んできているのが見て取れる(図5)。2008年当時より影響を与えている項目としては、「終末期の方針を相談する機会が増えた」、「WithdrawとWithholdingを明確に意識」、「最善を意識して治療方針などをたてるようになった」、「リビングウィルなど本人の意思を確認するようになった」、「家族への説明の際、看護師らが同席するようになった」、「医療チームと家族らの意見を明確にし、方針を立てる」、「医療チームと家族らの意見の一致と不一致を明確に意識」、「説明や同意の内容について、正確な記録を残す」、「記録から終末期プロセスをたどれる」、「落ち着いた環境で説明することに配慮」があり、終末期の実践において本ガイドライン公開を契機に、患者やその家族の心情に配慮し、また医療機関として判断したプロセスを記録として残すような姿勢が定着してきていることが明らかとなった。 一方、「暗黙のうちに行われてきた治療の撤退がかえってしづらい」という意見も、2012年でも49名(7.4%)あった(2008年 63名〈8.8%〉)。このような意見はガイドライン公開後の過渡的なものと考えていたが、その後も一定数の割合で存在することがわかった。同様に、「主治医の判断が軽視されているように感じる」とした救急科専門医が2012年に28名(4.3%)おり、2008年の30名(4.2%)と同程度であった。これらの結果は、終末期の問題について救急医療に携わる救急科専門医は一般の人々に対しても十分な説明責任をはたすべきであり、終末期の判断においては主治医を含めた医療チームで行うことが妥当であることを含めた終末期医療のあり方について、更なる啓発に努める必要があることを示している。 救急医療における終末期に限定してはいるものの、本ガイドラインが他に公表されているガイドラインと明確に区別して特徴づけられるのは、「終末期の定義」と「延命措置を中止する方法」について、具体的に記述している点である。2)3)「終末期の定義」では、定義1.「不可逆的な全脳機能不全(脳死診断後や脳血流停止の確認後なども含む)と診断された場合」について、2012年は図7aのような結果であり、また定義2.3.4.も同様の結果(図7b、c、d)であった。救急医療における「終末期の定義」として、ガイドラインに示された定義1‐4が妥当であると救急科専門医が考えていることが示された。 一方、「延命措置を中止する方法」では、2.「人工透析、血液浄化などを行わない」(図8b)、3.「人工呼吸器設定や昇圧薬投与量など、呼吸管理・循環管理の方法を変更する」(図8c)といった方法に関しては、救急科専門医の間で許容できると比較的肯定的に認識されているのに対し、1.「人工呼吸器、ペースメーカー、人工心肺などを中止、または取り外す」(図8a)、4.「水分や栄養の補給などを制限するか、中止する」(図8d)に関しては、2012年においても救急科専門医の間で未だ意見を十分には昇華しきれていないことが示されている。一旦、開始した治療からの撤退、特に視覚的にはっきりと認識できる治療からの撤退や、生存のための必要最低限のサポートを制限したり、中止したりすることの抵抗感が強いことが示されている。これらが変化していくには、国民の間で理解が深まり合意が形成されていくことが必要であるが、それでも生存のための必要最低限のサポートについては、本邦においては抵抗感が拭えない可能性も考えられる。 一方で、本ガイドライン公開後約5年の間に、「適用しようとした事例があった」と答えたものは135名(20.5%)になっており、前回の約10か月間の間での96名(13.8%)よりも増加している。適応しようとした事例があった場合に、103名(76.3%)が本ガイドラインを参考にしていることは本ガイドライン公開が、現場で大いに参考になっていることの証左といえる。本ガイドライン、あるいは施設のガイドラインのいずれにおいても、ガイドラインを適用してよかったと107名(79.3%)が回答し、良くなかったと回答したものはわずかに1名(0.7%)であった。 一方、「適用しようとした事例がなかった」と答えた471名(71.6%)のうちで、適用したかったができなかったと答えたのは114名(24.2%)であり、その内訳で多いものとしては「家族らの意見がまとまらなかった」86名(13.1%)、「法的な問題が未解決である」73名(11.1%)、「終末期の問題について、社会の合意が得られていない」54名(8.2%)が挙げられ、2008年当時と大きな変化はみられなかった。今回はさらに「中止や撤退の方針が一致せず」41名(6.2%)、「医療チーム内の意見がまとまらず」53名(8.1%)等が2008年当時より増えてきている。最も多い「家族らの意見がまとまらなかった」と合わせて考えると、現場で議論の機会は増えてきているものの、まだ、その議論の方向性が必ずしも定まっておらず、現場での模索が続いている状況ではないかと推察される。そもそもが多忙な救急医療の現場でこのような議論が行われていることの負担は大きいと考えられるものの、終末期医療についてはこのような議論を重ねていくこと自体に意味があり、学会からの支援(サポート)として上位に挙げられている「紛争/訴訟における学会の医学的意見の提示」や「法律の専門家を学会が確保し、支援」などが、現場の負担を軽減する方法として考慮される。また、救急医療における終末期症例に関するウェブサイトについては、救急科専門医においても認知度は、約半数(330名 50.2%)にとどまっており、実際に症例登録をしたことがあるものは、11名(1.7%)にすぎない。救急医療における終末期医療を啓発していくために、症例の共有の仕組みを作っても、多忙な現場において、この仕組みを活用とするところまで至っていないことがみてとれる。 ガイドラインの適用においては、適用する意図がなかったとこたえたものが、253名(53.7%)であった。ガイドラインを適用した場合に、8割近くがよかったと回答し、良くなかったとしたのはわずかに0.7%である一方で、そもそもガイドラインを適用する意図がないと考えているものが、今回の救急科専門医回答者全体の4割(253/658名 38.4%)近くにのぼっている。今後、救急医療における終末期医療のあり方を検討していくうえで、なぜガイドラインを適応する意図がなかったのかについて、分析を行う必要があると考えられ、その分析のなかから明らかとなる考え方に対して、議論を行うことが救急医療における終末期医療をさらに進めていくうえでは必要であろう。 臨救看護師との比較における救急科専門医の終末期ガイドラインに対する意識の変容について 回収率は16.3%と救急科専門医(19.5%)よりも低かったが、属性についてはむしろ救急科専門医よりも3次施設、救急医療にかかわっている比率は高く、現場の意見を反映していると考えられた。ガイドラインを知っていると回答した臨救看護師は50名(64.9%)にのぼり、必要性についても70名(90.9%)が必要であると答えており、ガイドラインの影響についても救急科専門医と同様、多かった。具体的に影響のあった項目としては、「正確な記録」、「看護師の同席」、「倫理的配慮」、「落ち着いた環境」などで、実地の際に重要となる項目での影響を挙げる傾向が高かった。終末期の定義、延命措置を中止する方法については、臨救看護師と救急科専門医に大きな相違は認められず、職種を超えて救急医療従事者には、同様の考えが認められたことは興味深い。日本救急医学会からの支援(サポート)においても、「法律の専門家を学会が確保し、支援」、「紛争/訴訟における学会の医学的意見の提示」、「事例に対する学会の相談窓口」が挙げられており、上位3項目は救急科専門医と同一であった。救急医療の現場で、職種を超えて共有する考えがあることが今回のアンケート調査で示されたことの意義は大きいと考えられた。 まとめ 本アンケートは、前回のガイドライン公開後約10か月に続き、約5年後に行われたものであり、本ガイドラインに対する考えが救急科専門医の間でどのように変化したか、あるいは不変であるかを示すことができた。今後、他学会との共同ガイドラインなど、ガイドラインそのものの改訂もあり得るところではあろうが、救急科専門医の考え方そのものについてもまた、引き続き追跡して行く価値が充分にあると考える。 謝辞 今回のアンケート調査において対応いただいた日本救急医学会 救急科専門医、日本臨床救急医学会会員(看護師)の皆様に心より感謝申し上げます。 参考文献
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