Japanese Association for Acute Medicine
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脳死判定と判定後の対応ついて−見解の提言

平成18年2月21日

有限責任中間法人 日本救急医学会

 平成9年6月17日、「臓器の移植に関する法律」(以下、法律と略する)が成立し、同年10月16日施行された。以来、平成18年1月31日までに法律に基づいた42例の脳死判定が行なわれ、内41例から脳死下臓器提供がなされている。この間、日本救急医学会は法律に基づいた脳死判定、現行の臓器提供システムやその手順に関して様々な問題点や解決されるべき課題を指摘してきた。一方、与党国会議員有志で組織されている臓器移植検討会が法律の改正に向けて試案を作成している。このような状況のもと、過去の日本救急医学会理事会見解を再確認し、さらに現行の法律に基づいた脳死下臓器提供の経験と実績から現時点での課題に関する見解を公表することは、公平で公正な医療に資するため有用であると確信する。

日本救急医学会は
1) 脳死は人の死であり、それは社会的、倫理的問題とは無関係に医学的な事象である(平成9年7月2日「臓器の移植に関する法律成立に関する日本救急医学会理事会見解および提言」)、
2) 臓器移植手術を妥当な医療と認識し、脳死下臓器摘出と臓器提供は不可欠なものと理解する(平成3年11月25日「脳死体からの臓器提供に関する見解」)、
3) 法律は遵守されなければならない(平成9年7月2日「臓器の移植に関する法律成立に関する日本救急医学会理事会見解および提言」)、

として脳死と脳死患者からの臓器提供についての見解を公表したが、その立場は一貫し現在も不変である。
 なお、1)の脳死が人の死であるとの考え方は、平成4年1月22日に公表された臨時脳死及び臓器移植調査会(脳死臨調)の最終報告以来広く知られたが、正確な診断がなされることを前提に医学的にも社会的にも広く受け入れられつつある。脳死の診断は移植医療とは全く無関係になされ、患者の絶対的予後不良を知るための純粋な医学的診断行為であり、患者、その家族、あるいはその関係者の社会的、倫理的背景、または情緒的なものに影響されるものではない。従って他の臓器不全の診断と同様に、その診断は医学的判断によって行なわれるべきもので、その他の要因によって干渉されることがあってはならない。
 しかしながら、脳死を人の死とする考え方が必ずしも全ての一般市民に受け入れられた考え方ではない現状に鑑みると、脳死診断後の医師の対応は慎重でなければならない。例えば患者本人の意思として脳死を人の死とは認めない場合、あるいは脳死を受容しない患者家族やその関係者に対しては、脳死を人の死とする考え方を強要するべきではないと考える。すなわち、脳死判定後の対応、具体的には人工呼吸器の設定条件、昇圧薬使用方法、輸液・栄養管理等は患者本人の意思、患者家族、あるいはその関係者の想いを十分配慮し決定すべきである。脳死と診断された患者管理に対するこのような考え方と対応は本邦の現時点での状況を考えると、むしろ現実的な対応であると思われる。

見解の提言
 以上、過去の日本救急医学会理事会見解や法律に基づいた脳死下臓器提供の経験と実績、およびその現状から以下の見解を提言する。
1) 脳死は人の死であり、それは社会的、倫理的問題とは無関係に医学的な事象である。
2) 脳死は臓器提供の有無にかかわらず正確に診断し、その診断結果を患者家族、あるいはその関係者に正しく伝えるべきである。しかし、脳死診断後の対応については患者本人の意思、患者家族、あるいはその関係者の考え方を十分考慮して決定する。
3) 臓器移植手術を妥当な医療と認識し、脳死下臓器摘出と臓器提供は不可欠なものと理解する。

以上
 
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