Japanese Association for Acute Medicine
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医療事故の調査などに関する日本救急医学会の提案「案」について

平成21年11月20日
会員各位
一般社団法人 日本救急医学会
代表理事 杉本 壽
診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会
委員長  有賀 徹

拝啓

時下、益々御清祥のこととお慶び申し上げます。常日頃から多岐に渡り御支援を賜っております。まずはここに感謝の意を表したく思います。ありがとうございます。

さて、日本救急医学会の「診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会」では年余を掛けて、例えば院内事故調査委員会のあるべき姿などを議論してきました。そして、その過程で厚生労働省による提案などにきちっと反対する考え方を示してきました。これらは学会HPに詳述された通りで、多くの会員にもお読み頂いているところと思います。

そこで、救急医学会総会・学術集会などで議論の過程をお示しし、御意見を賜ってきました「診療行為関連死の死因究明等の在り方」につきまして「医療事故の調査などに関する日本救急医学会の提案(案)」としてここに掲載したく思います。本文と、3つの流れ図(フローチャート)、3編の別紙とから成っております。基本を貫く理念はprofessional autonomyなどであり、日常的に我々が患者・家族と協働しながら行っている医療の、その延長上に院内での事故調査もあるなどというものです。医療の実務に当たっている現場に対して無用の不安・混乱をいざない、救急医療の崩壊を更に押し進めていたであろう厚生労働省案などとは全く異なった内容の「提案(案)」です。

以上の通りです。会員各位におかれましては、この「提案(案)」をぜひともお読み頂き、現場における試行、活用など御勘案ください。そして、本特別委員会への御意見などにつきまして学会事務所宛に適宜賜りますれば幸いです。どうか宜しくお願い申し上げます。

最後になりましたが、各位におかれましてもどうぞ御自愛専一になされますよう、また益々の御健勝と一層の御活躍を心からお祈り申し上げます。

敬具

<参考資料>
厚生労働省「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に対する見解について
厚生労働省「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案」(第三次試案)について

<案>

医療事故の調査などに関する日本救急医学会の提案

§はじめに

今を遡る10年ほど前から、わが国の医学教育については、大幅な改革が進められてきた。そこでは、医学部の学生教育のみならず、卒後の若手医師への教育にも様々な新しい取り組みがなされている。卒後初期臨床研修制度の必修化もこの一環と捉えることができる。それらの改革の内容は多岐に渡るが、従前に比べて、国民のニーズによって明らかに重要性が高まった分野が、救急医学ならびに救急医療に関する教育であることは周知の事実である。言い換えると他の分野に比して、日本救急医学会に所属する我々救急医の、救急医学・救急医療に関する教育を行なわねばならない立場並びに社会的な位置付けが極めて重くなっていると言うことができる。

そのような状況において、我々の日常における行動理念ないし行動規範とは、医学的、倫理的に正しいことを自律的に行うことであり、それが教育ないし診療の実践を貫く基本的な考えとなっている。それは、また広く“ひとを思いやる心”と言うこともできる。医療事故に対しても、そのような理念・規範をもって、一貫性のある真摯な態度、行動を取るべきことは当然である。従って、そのような我々の現場は事実の隠蔽や歪曲といった事象とは全く無縁のはずである。敢えて説明する必要もなかろうが、隠蔽や歪曲を否定することは勿論のこと、至誠を貫くことそのものが、医学、医療を教育し、実践する上でその根本をなす。

本学会は医療事故の調査などにおいて、まずは院内での調査を先行させることを提案する。これは、言わば院内調査先行主義の方法論である。これに対して、万が一にも事実の隠蔽や歪曲といった疑念を差し挟む考えがあるようなら、それは、医学的、倫理的に正しいことを自律的に行おうという理念・規範について、及びそれらを基に展開する救急医学、救急医療に関する教育・救急診療の実際について、著しく理解が不足しているものと言わざるを得ない。このことについては、末尾に記載のある「§解説〜日本救急医学会による提案の意義など〜」に詳しい。

以下に有害事象の発生から、その後に引き続く諸々の作業について順を追って説明する。

Ⅰ有害事象の発生から院内事故調査委員会までなどについての提案(フローチャート1

1)有害事象(と思われる事象を含む)の発生時において

まずは、①患者の救命処置を行う。引き続き、②患者の家族らへの連絡を行うとともに、③所属長、部門リスクマネージャー(RM)、医療安全管理室長(ジェネラルリスクマネージャー,GRM) へ報告をする。③は可及的に速やかにこれを行うべきである。

2)医療安全管理室における事例検討

医療安全管理室においては、①当事者からの報告・情報を収集し、②病院長に報告する。そして収集された情報などから、③”重大”な事象であるかどうかの判断を院長・医療安全管理室長が下す。

それにより、a)重大事象と判断する場合には、以下3)へ進む。b)重大事象と判断しない場合には、主治医・家族関係をそのまま維持しながら治療の続行を指示する。この時点において、またはその後に時間を経てからも(例えば、長期的な療養の目的で病院を転じた後であっても)患者・家族らから疑義を正したいなど、求めがあれば重大事象と判断して以下3)へ進む。

3)重大事象であると判断をした場合

ここで、①院内事故調査委員会を招集する。院内事故調査委員会については、個々の病院がそれぞれ固有の名称を冠している場合が多いと思われ、例えば、定例で開かれる医療安全管理・対策委員会を臨時で招集する方法もある。

加えて、病院規模が小さい場合には、地域の中核病院、大学病院などからの人的支援についてあらかじめ計画していることが望ましい。また、該当事案に造詣の深い専門家を外部委員として招聘することもあり得る。加えて、診療記録は開示請求などと様々に取り扱われることがあり得るので、委員会にはあらかじめ診療情報管理士(旧診療録管理士)を参加させておくことも一考に値しよう。いずれにせよ、ここでは院内事故調査委員会の名称をそのまま用いて説明を続ける。

院内事故調査委員会においては、②当事者からの報告などを元に検討・調査を行う。ここには、医学的に時間的な推移はどのようか、何が起こったのか、有害事象の原因についてはどのようか、現状における医学的な対策はどのようか、そして今後の見通しなど、医学的な観点からの議論がまず重要である。

引き続いて、患者・家族への説明が事前にどのようになされていたか、同じく事後にどのように説明されているか、患者・家族の理解などについてどのようか、今後における見通しなどについて主治医ら関係者らから説明がなされることとなろう。

以上の事柄については、事前から事後に至るまでの記載が診療録にどのようになされているかも確認する。

院内事故調査委員会での決定に従って、医療機能評価機構への報告、行政(衛生部門など)への報告、病院管理者(理事長など)への報告・公表(マスメディアなど)についても、あらかじめ決められたルールに従って医療安全管理室からこれらを行う。

ただし、病院長、医療安全管理室長らの判断で死亡診断書・死体検案書の記載が可能と判断するなら警察への届出は原則として不要である(特に、死亡事故となった場合については、U以下を参照されたい)。

③患者・家族へ上記の医学的な状況を中心に丁寧な説明を行う。この時に、主治医に加えて、所属長、医療安全管理室長などがともに説明に当たる場合もある。これらの説明などもまた診療録に遅滞なく記載する。

上記の一連の事象については、④議事録を作成し、定例的に行われるD医療安全管理・対策委員会(定例)へ報告する。

4)医療安全管理・対策委員会の開催(定例)

定例の医療安全管理・対策委員会においては、①再発防止策の検討、②その院内への周知・徹底について議論される。それらについて、③議事録に記載する。

Ⅱ特に、死亡事故となった場合に関する提案(フローチャート2

1)死亡診断書・死体検案書の記載が可能であるか否かについて判断する

主治医ないし医療安全管理室長が「記載できる」と判断することができれば、2)以下へと展開する。この場合に病理解剖を勧めることが医学的に正しい方法である。「記載が可能でない」と判断した場合には、警察へ届出る。ただし、この場合においても2) 院内事故調査委員会を招集し、検討を進める必要がある。なお、ここでも病院規模が小さい場合には、地域の中核病院などから人的支援を得ることが望ましい。

2)院内事故調査委員会を招集する

ここで行われる院内事故調査委員会はⅠ-3)と基本的に同じものである。当事者からの報告などを元に検討・調査を行う。この際に①直接的な利害関係のない専門家による“個別的専門調査”とすることが求められる。

ここでは、まず医学的に時間的な推移はどのようか、何が起こったのか、有害事象の原因についてはどのようか、医学的に何がなされたのかなどの、医学的な観点からの調査と検討が行われる。

引き続いて、②患者・家族への説明事前にどのようになされていたか、同じく事後にどのように説明されたか、患者・家族の理解などについてどのようか、今後における見通しなどについて主治医ら関係者らから説明がなされる。

以上の事柄については、事前から事後に至るまでの記載が診療録にどのようになされているかも確認する。

院内事故調査委員会では、医療機能評価機構への報告、行政(衛生部門など)への報告、病院管理者(理事長など)への報告・公表(マスメディアなど)について、あらかじめ決められたルールに従って医療安全管理室からこれらを行う。

3)遺族への説明・協議

当然のことながら、①丁寧な説明を心がけ、場合により、②メディエーターなどの活用もあってよい。引き続いて、可能であれば、③病理解剖、モデル事業の提案など、剖検について遺族に働きかける。診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業(以下、モデル事業)や監察医制度などは、それが布かれている地域もあれば、そうでない地域もある。また、地域の中核的な病院に大学勤務の解剖医が出向いて剖検を行ったり、地域の大学病院間で輪番制を組んだりするなど、地域それぞれに剖検を得るための様々な工夫が知られている。いずれの方法であれ、剖検についての遺族への働きかけは、すべて医療者と患者・家族が協働して医療に当たってきた、その延長上にあることを認識せねばならない。

4)報告書について

報告書の作成は、原則的に①WHOガイドライン別紙1参照)に則る。

また、②刑事裁判・民事裁判の証拠資料としないことについては、明文化するなど今後に検討せねばならない重要な事項である。③必要に応じて、再発防止策の検討、それの周知・徹底の方法などに言及する。

5)医療安全管理・対策委員会の開催(定例)

定例の医療安全管理・対策委員会においては、①再発防止策の検討②その院内への周知・徹底について議論される。それらについて、③議事録に記載する。

Ⅲ遺族ないし医療者に不服・異議のある場合の提案(フローチャート3

不服・意義とは、Ⅰ3)③、Ⅱ3)、Ⅱ4)のいずれかに対するものを指す

1)地域事故調査センター(地域医療支援センター内に設置、各県に1箇所、今後に検討)における調査

ここでは、①一般的専門調査(第三者評価)であり、医療専門家のみで構成されることが重要である。そして、②原因究明にとって最善の手続きを確保することが肝要であるから、ここでも原則的にWHOガイドラインに則って行うことが重要である。

2)報告書の作成

原則的に①WHOガイドラインに準ずる。非医療者が読む場合を想定して医学用語の解説を付けるなどの工夫もあってよい。

また、②刑事裁判・民事裁判の証拠資料としないことについては、明文化するなど今後に検討の余地がある。③必要に応じて、再発防止策の検討、それの周知・徹底の方法などに言及する。

Ⅳ更に、遺族ないし医療者に不服・異議がある場合の提案(フローチャート3

Ⅲ2)報告書に不服・異議がある場合を指す

1)不服審査機関(中央センター、全国8箇所(高等裁判所のある8箇所)設置、今後に検討)における調査

ここでは、①外部委員として医療専門家以外(裁判官経験のある弁護士など)も入る。②原因究明にとって最善の手続きを確保するには、原則的にWHOガイドラインに従って調査を行う。

2)報告書の作成

原則的に①WHOガイドラインに準ずる。非医療者が読む場合を想定して医学用語の解説を付けるなどの工夫もあってよい。

また、②刑事裁判・民事裁判の証拠資料としないことについては、明文化するなど今後に検討の余地がある。③必要に応じて、再発防止策の検討、それの周知・徹底の方法などに言及する。

§解説〜日本救急医学会による提案の意義など〜

1)基本となる理念について

我々は、日常的に携わる診療について標準化されたプロセスに沿ってしばしば行われていることを心得ている。しかし、診療の過程が一般的にその通りでも、患者、家族の感性や心の動きなど、言わば“個別性”は決して小さいものではなく、その意味で患者・家族と医療者との関係は極めて重要であり、その故に両者のパートナーシップ、協働が問われることも周知である。そして、万が一に有害事象が生じた状況においては、この両者の関係が通常の診療に劣らず、否それ以上に大きな意義を持つ。このことは、一般的な医療に比べて、はるかに短い時間的条件の中でこの関係を構築せねばならない、救急医療に携わる我々にとって、正に日々実感するところでもある。

さて、そのような状況にあって、有害事象が生じる、ないしそれが患者の死亡に至るなどあれば、我々は患者、家族との協働の医療を展開してきた、その延長線上に患者、家族への説明責任を果たすことが求められるはずである。それは、それまでも医学的、かつ倫理的に正しいことを行ってきた、その延長上に起こったことであるから、やはりそのように行うということに他ならない。従って、冒頭に述べたように、当事者主義にて事故調査を開始し、説明を行なうべきという方針となる。医療者の自律とはそもそもそのようなものであり、洋の東西を問わず“ひとを思いやる”我々医療者の心からも、まずはそのように行動することが求められる。

2)具体的な作業

上記の立場で医療事故の調査などに関する諸々の作業について、まずは院内で開始することになる。患者の死亡と言う極端な事例でなくとも、いわゆるグレーゾーンに入る事例は決して少なくない。そこで、「Ⅰ有害事象の発生から院内事故調査委員会の開催まで」と「Ⅱ死亡事故となった場合」とを区分けして作業の道のりを提案した。前者は、病院医療の患者安全などについて管理をする立場からもしばしば有用な作業である。

患者、家族にとっても、また医療者にとっても、納得の水準に至らなければ、その後は院外に作業過程を移すことになる(Ⅲ、Ⅳ)が、それでも医療に携わる専門家としての自律的な作業が主軸になる。いずれにせよ、我々の提案は説明責任を果たし、信頼と納得の得られる医療の実践であるから、その意味で民事・刑事訴訟など社会的なルールとは一線を画している。

しかし、医療の歴史を紐解けば、また今後ともそれを発展させていかねばならないことに鑑みれば、現在においてもそもそも医療とは本質的に不確実であることを理解することができる。該当事案においても、そのような不確実性が含まれていることはあり得る。しかも、そのような可能性の方が大きいといっても過言でないかもしれない。つまり、具体的な作業としてフローチャート1以下にて解説を進めてはいるものの、これに沿えば全てが説明できるというものではなく、謙虚に不確実性を認めねばならない場合もあろう。医療の進歩が説明できる範囲を増加させていることは確かであろうが、それでも全てにわたって説明できるなどは今後ともあり得ない。このような不確実性があるなら、そのことについても患者・家族にきちっと説明する必要がある。

3)本提案の範疇に含まれない事例、および異状死体について

上記の民事、刑事の係争に関連して若干の混乱が懸念されるので、ここで本提案の範疇に含まれない事例などについて確認しておきたい。それは、ここで提案されているフローチャート1以下の対象事案は、診療行為関連死以外のもともと犯罪性のある、つまり故意に傷害や殺人を生じたものは除かれているということである。そのような事例について我々救急医は稀ならず遭遇するが、そのような場合には単に異状死体としてそのまま警察に届け出ている。

そこで、そのような故意によるなどではなく、フローチャート1で説明したグレーゾーンに入るもの、その極端な事例として死亡に至ったものについてが、ここでの提案の対象となり、それらがフローチャート1以下の提案である。手術による合併症が予想されていて、それによる死亡についても、そのまま異状死体として届出の対象とすべきであるという極端な主張までもがあって、それらが我々救急医を含む斯界に大いなる混迷をもたらしたことは周知である。届出に言及する医師法21条について、本提案では別紙2に改正の骨子などをまとめてある。医師法21条の解釈において、先の極端な考え方などが入り込む隙をなくす、きちっとした形にしたいという趣旨と理解されたい。

以上により、フローチャート2における警察への届出については、別紙2「1.届出範囲」の②に則る。当該医療事故が、故意または故意に近い悪質な診療行為による死亡である可能性など、様々な議論はあるが、それについては別紙2「解説」①〜④を参照されたい。繰り返しになるが、基本的に医療行為の中には“故意による犯罪”が含まれているはずがない。従って、医療者には事故調査委員会の報告内容を遺族に丁寧に説明することこそが求められるのであって、その後に、民事、刑事などの係争がどのように展開するか、またはしないかについてこの時点においては医療者として全く関与するところではない。

4)まとめ

我々は医学的、倫理的に正しい医療を自律的に行っている。そして、それらを基に救急医学、救急医療の教育、診療の実践に当たっている。この方法こそが患者、家族らから信頼と納得の得られる医療そのものである。

以上の記述により、我々の提案とその意義について充分に理解することができるものと考える。“医療者の自律”と行政その他に左右されない“医療の独立”(世界医師会ソウル宣言、2008年10月、別紙3参照)とはこのようにしてこそ具現化されるものと強く思う次第である。

一般社団法人日本救急医学会 代表理事 杉本  壽
診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会
  委員長 有賀  徹
  副委員長 鈴木幸一郎
  副委員長 堤  晴彦
  委員 明石 勝也
  委員 石松 伸一
  委員 奥寺  敬
  委員 島崎 修次
  委員 杉本  壽
  委員 野口  宏
木ノ元総合法律事務所 弁護士 木ノ元直樹
後藤・太田・立岡法律事務所 弁護士 中村 勝己
森山経営法律事務所 弁護士 森山  満
シリウス総合法律事務所 弁護士 横山 真司

有害事象発生時の対応フローチャート1

<案>

有害事象発生時の対応フローチャート

有害事象発生時の対応フローチャート

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有害事象発生時の対応フローチャート2

<案>

特に、死亡事故となった場合に関する提案

特に、死亡事故となった場合に関する提案

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有害事象発生時の対応フローチャート3

<案>

遺族ないし医療者に不服・異議がある場合の提案

遺族ないし医療者に不服・異議がある場合の提案

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