なぜ、このようなことがなくならないのでしょう?
「救急でも専門の医師に診てもらいたい」という患者さんの心情は当然ですが、各科専門医のみで救急初期診療を分担して行うことには2つの問題点があります。
第一は医療コストの問題です。最近は内科医と言っても、循環器科医、消化器科医、呼吸器科医、感染症医、神経内科医・・・と細分化されており、すべてのグループの代表を当直させるには膨大な人件費がかかります。たとえ内科医当直を一人としても、外科、整形外科、脳神経外科、小児科、産婦人科・・と各専門科の医師を一人ずつ揃える当直体制を組むだけでもコストはかさみます。たとえこのような病院を作ることができても、全国隅々にまで行き渡らせるには国民負担の増大が避けられません。
結局、通常の病院では専門医を揃える当直体制が不可能なため、「専門医がいない」などと診療を断られる救急患者さんが今でも少なくないのです。
救急初期診療を各科専門医で分担して行うことの問題点は医療コストだけではありません。もう一つの問題点は、患者さんの選ぶ専門科が必ずしも適切ではない場合があるということです。「肩が痛い」と整形外科を受診しても実は急性心筋梗塞(循環器救急)であったり、「吐き気がする」と消化器内科を受診しても実は緑内障発作(眼科救急)であったり、転倒して大腿骨を骨折した患者さんに致死的な不整脈が隠れていたりすることがあるのです。適切な対応が遅れたなら、このような場合いったい誰の責任になるのでしょう。受診する専門科を間違えた患者さんにあるのでしょうか。
これらの問題を解決するため、あらゆる救急患者さんの診療にあたるのがER医(救急外来医)です。ER医は、子供さんでも高齢の方でも、病気でもケガでも心の問題でも、「専門ではない」と断ることはしません。軽症、重症を問わず、歩いて受診される患者さんでも救急車で搬入される患者さんでも、すべての患者さんに対し責任を持って初期診療を行います。そして自らの能力の範囲で帰宅可能の判断を下し、必要があれば専門医に相談や紹介を行います。
様々な救急対応の経験を持ち、幅広い診療領域をカバーするER医がすべての救急初期診療にあたり、専門医でなければ対応できない病態のみを専門医が診療することで、診療の安全性と医療コストのバランスをはかることができるのです。
米国の人気テレビドラマ「ER」で良く知られるように、北米において救急医(Emergency physician)と言えば、このようなER医のことを指しています。わが国の若い医師たちの中にも、その必要性とやりがいを認識しER医を志す者が少しずつ増えてきています。すべての救急患者さんが行き場を失わず、安全に、確実に、過剰な負担なく診療を受けられるようにすること、それがER医の役割です。