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沖縄県立中部病院救急センターにおけるER型運営の実態と問題点
−25年の経験から−

演者:
松浦 謙二
所属:
沖縄県立中部病院 救命救急センター外科

はじめに

初期研修制度が義務化され、近年「ER型救急」という言葉が盛んに用いられるようになってきた。本邦における救急医療の独自な発展と変革にともない、言葉だけが一人歩きしているようにも感じられる。沖縄中部病院では、約25年にわたり現在と同様の研修制度およびいわゆる北米式ERを運営してきた。

今回、この場をお借りして当院のERの運営と実態、問題点を論ずる。

歴史的背景とERの運営状況

沖縄県立中部病院では、その歴史的背景・研修教育の観点から1978年頃より米国指導医の指導のもと現在のER方式の救急センターを運営してきた。すなわち、1〜3次までの救急患者を区別することなくすべて受け入れ、24時間・365日同レベルの医療水準を維持するため救急専属医を配置。多くの専門科が随時サポート、コメディカルスタッフは完全3交代制度をとっている。救急センターの年間受診者は約 35,000人で、その65-75%はWalk inである。(表1)取り扱い上、いわゆる三次救急となっている入院患者は、1,000人(3%)ほどであるが、例年多くの患者が「いわゆる1次にまぎれた3次」の形式で救命されている。

(表1)救急実績:沖縄県立中部病院 2004年度

(表1)救急実績:沖縄県立中部病院 2004年度

実際の運営では4名のER専任スタッフを中心として、多数の医師がERを分担担当するシステムができている。(表2)1日3回のER回診が各科で行われ、時間によっては夜間でも30名ほどの医師がERに詰めることもまれではない。

ER専任のドクターの役割として、当院では(表3)のように考えている。

(表3)ERドクターの役割

  • すべての患者の初療に原則として関与
  • 診断〜検査〜初期治療まで
  • 帰宅可能かどうかの判断が中心
  • ERを離れての検査・処置は原則として行わない
  • 外来・入院医療は行わない
スタッフ(4人)
  • 研修医の指導・教育
  • ERの運営・ベット調整・コーディネーター的役割
  • 教育行事・症例検証
研修医(1〜4名)
  • PGY1〜4・屋根瓦方式の教育
  • 1ヶ月〜3ヶ月ローテーション医師+ER当直当番医師

ER中心型の病院運営、研修運営

本邦における救急システムの分類は、2004年度のER特別委員会で論じられたように、集中治療型と救急初期治療型に大きく分類され、さらに救急初期治療型はER型と各科相乗り型の2つに分類されている。当院の場合、上の分類のどれにも該当せず、救急初期治療型のER型と各科相乗り型を合わせたような、言い換えれば「ER中心型」の救急システムをとっている。(表4)

(表4)本邦における救急医療システムの分類
  1. 集中治療型(critical care型)
  2. 救急初期診療型
    1. ER型
    2. 各科相乗り型

ER検討特別委員会 2004

1+2. ER中心型

臨床業務においては、ERドクターのみならず、当院で勤務するすべての医師は科を問わず救急室を中心に診療活動を行っている。病院全体の入院患者の60-65%は、救急センター経由の入院である。一般診療のついでにERの診療を行うのでなく、各科の診療行為のかなりの部分がER関連の業務となる。帰宅できない症例・入院観察の必要な症例・処置手術が必要な症例などでは、随時各科の当番医師グループと連絡をとり、適切な方針を迅速に決定する。時間外や混雑時は適宜、各科医師がER専任の医師として対応することもある。(表5)

(表5)ER中心型の救急システム

(表5)

本邦における救命救急センターをその立地形態で分類すると、おおまかに完全独立型・併設独立型・附設型の3つの形式に分類される。(表6)当院では、病院の設計の時点で、手術室・ICU・CT室などすべての構造がERを中心に配置されている。(表7)

(表6)立地形態による救命救急センターの分類と(表7)ER中心型:沖縄県立中部病院

(表6)立地形態による救命救急センターの分類
(表7)ER中心型:沖縄県立中部病院

臨床研修において、ERは多くの症例を提供する。ERは、当院においては臨床教育の中心の場所でもある。すべての研修医は、初期研修中は通年を通じて各科医師当直以外に、ERドクターとしての当直義務があり1年間でかなりの症例を経験する。(表8)

(表8)卒後1年目医師(PGY-1)のERで担当した症例

(表8)卒後1年目医師(PGY-1)のERで担当した症例

研修医は、症例のみならず多種多様な患者さんと接することで問診やコミュニケーション技術などの医師としての基本姿勢を身につける。また、上級医師になるとERが指導教育の中心的場所となる。

このように当院のERは、臨床業務・立地形態の面で病院の中核であり、当院における臨床教育の中心となる場でもある。このような考え方は、当院の医師・研修医のみならず病院職員一同に広く浸透しているため、すべての項目に対してERが優先するという暗黙の了解があり、現在のER中心型の救急システムが運営されている。

ER方式の利点と問題点

ER方式のメリットとしては、転院転送がないため瀕死の患者の救命率が高い、隠れた三次の患者が抽出されやすい、専門治療は各科専門医が迅速に標準化された治療を行う、研修教育の場として最適である、など多数ある。しかしその一方現在の問題として、一次患者の待ち時間が長い、多くの人員を要する、ERドクターの不足と不満足感、連日の入院ベットの確保の問題、スタッフの過重労働などがあげられる。また医療の高度化・専門化が進んでいるにもかかわらず、世論一般に救急専属医師がまだ十分受け入れられていないことも救急専属医師の立場を微妙にしている。今後の課題として、ERドクターの養成と維持・新臨床研修制度とERをよりうまく結びつけ体系づけていくか・臨床研究の場としてのERの存在とそのための住民の理解をいかに得るか・慢性的なベット不足の解消のために地域での医療機関との役割分担、などの事柄を解決する必要がある。

多くの課題もあるが、ER方式の運営は臨床研修病院においては必須であるとともに、最終的にはその恩恵は住民に寄与すると考えられる。また、救急センターが病院の中核であるという職員の暗黙の了解・チームワークがあって始めて多くの問題が克服され、患者中心の医療が行うことができると考えている。

病院の中核としてのERを現す図

文献

  1. 篠原幸人監修.永山正雄、濱田潤一編著.神経内科救急・集中治療の手引き−.医学書院,東京,2006(in press)
  2. 篠原幸人、吉本高志、福内靖男、石神重信/脳卒中合同ガイドライン委員会(事務局:永山正雄)編著.脳卒中治療ガイドライン2004.協和企画、東京,2004
  3. 永山正雄、篠原幸人:Neurological intensive care unit(neuro-ICU)の必要性.神経治療学.19:101-108,2002
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